lotlotlot2-ふたつの道-
まだ、じいちゃんが生きていた時の話だ。
「イバーエ、今日はおもしろいものを見せてやろう。」
「おもしろいものって何?」
「それはまだ内緒だ。」
じいちゃんは含み笑いを浮かべた。僕は気になってしかたない。
「ねぇ、じいちゃん・・・何、何?」
「だから、内緒だ。あとでな・・・。」
もう、じいちゃんの笑顔を見るだけで、僕の興奮は頂点に達しそうだ。それくらいに、気になって仕方ない。

そして、じいちゃんが動き出した。
「イバーエ、そろそろ出かけるぞ。」
もう陽が暮れている。月もかなり高くに昇っている。こんな時間に出かけるなんて、はじめての事だ。僕は益々興奮した。
「えっ、こんな時間に?」
「この時間じゃなきゃ、ダメなんだよ。ほらっ、支度した。」
帽子だけ被って、じいちゃんの後を追いかけた。

僕は花火と言うものを見た事がない。じいちゃんが話しているのを、聞いた事しかない。だから、これが花火ってやつに似ているのかはわからないけど、すごくきれいだとはわかった。じいちゃんが、含み笑いをするのも当然だ。
「どうだ、イバーエ。きれいだろ?」
「うん。これって何なの?」
僕の顔は花火の光に照らされている。
「これか?これは花火花って言うんだ。毎年、この時期に、それも夜だけに花を咲かせるんだ。」
「そうなんだ。」
目を輝かせながら、僕は花に手を伸ばそうとした。
「ダメだ。」
突然、じいちゃんが怒鳴った。
「な、何?」
背中がブルンと震えた。
「いいか、花火花は触っちゃダメなんだ。見てろよ。」
側に落ちていた小枝を拾い、じいちゃんは花火花にかざした。すると、あっと言う間に小枝が燃え始めた。
「あっ。」
「本物の花火もそうなんだけどな、この花は燃えているんだ。燃えている様が花のように見えるだけなんだ。だから、イバーエ、この花を見かけても触っちゃダメだ。大火傷しちまうぞ。」
花が燃えるなんて考えもしなかった。僕は見知らぬものに接した喜びを覚えた。
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