紅芳記

医者に診てもらい、その間、ずっと殿は御側にいて下さいました。

「どうじゃ?」

切羽詰まったように、医者に問われます。

「…おめでとうござりまする!
ご懐妊でございます!」

「…え?」

私は、刹那何が起こったかわかりませんでした。

「小松!!」

殿はぎゅうっと抱きしめて下さいます。

「と、殿…!
苦し……」

「ああ、すまぬ。
嬉しゅうて、ついな。」

「まったく…。」

そんな憎まれ口を叩いても、幸せを実感せずにはいられません。

「生まれ月は、恐らく来年の始めかと。」

「そうか、大儀であった。」

「は。」

医者が下がり、二人きりになります。

「小松、ようやった。」

「はい…!
それで、殿。
石田様を待たせているのではござりませぬか?」

「おお、そうであった。」

「私は平気でございます故、行って下さいませ。」

「しかし…」

「お客様を待たせてはなりませぬよ。」

「…わかった。
また、すぐ来る。」

「はい。」

殿も行かれて、私は一人褥の上で天井を見上げながらお腹に手を当てました。


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