紅芳記

泣き止んだところで、義父上さまのご側室で竹千代さまの生母の、西郷局さまがいらっしゃいました。

西郷局さまと会うのは、これが初めてです。

「姫。
お母君のお見舞いで上洛されたため駿河御前さまがいらっしゃらないので、私から姫に申し上げます。」

「はい。」

「姫、武家に嫁ぐにはそれなりの覚悟をせねばなりませぬ。
いつ戦により、家が滅ぶかもわかりませぬ。
そうなったとしても、家のため、辱めを受けるようなことになっては夫の顔、家の顔に泥を塗ってしまいまする。
また、そうならぬ為に殿方を支えるのも女子の勤めにございます。」

私は西郷局さまの言葉を、ひとつひとつ心に刻んでいきました。


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