見てるだけ
「ホントよ。ホントに見たのよ。」
夫に言った。
「そんなのあるわけないじゃないか。寝ぼけてたんだろ?」
「ホントだって。見間違えだけならそうかもしれないけど・・・聞こえたんだよ、声。」
「怖い、怖いと思っているから、そう思うのさ。それよりそろそろ会社に行くから。」
朝食の時間に話したのがいけなかった。忙しい朝では夫も真剣に取り合ってくれない。早々に会社に行ってしまった。

「いないよね?」
一人マンションに残され、妻は不安に押しつぶされそうだ。特に寝室は怖い。まだ、あの女がいる気がするのだ。
ゆっくりと寝室のドアを開けた。
南向き。それも角部屋のマンションだ。寝室にも燦々と朝陽が差し込んでいる。これだけ明るければ不安もいくらか緩和された。
「はぁ・・・。」
ホッと胸をなで下ろした。
「布団でも干そう。」
気分を紛らわすには家事をするのが一番だ。妻はいつも以上に、家事をこなそうとしていた。
布団を持ち上げた。その時、何だろう。嫌な感じがした。
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