混沌のグリモワール~白銀の探求者~
 同刻、レギアス支部内トレーニングルームにて任務終了後の自主訓練を行うコーラルとフリッツ。
 長物のリーチを生かして距離を取りつつ戦うフリッツに対して、コーラルは模擬刀での防御に専念。
 端から見れば防戦一方に見えるが、コーラルの表情から焦りは見えない。

「槍の利点はリーチの長さだけじゃねぇ」

「その多様性を生かした連撃にある……だろ? 聞き飽きたよ」

「ぬかせっ!」

 模擬刀の届かない位置から横薙に一閃。それをコーラルは後ろに飛んで回避する。
 範囲ギリギリの攻撃は一歩後ろに下がるだけで届かないので、回避はし易い。
 けれど、コーラルはそれをせず、回避と共に大きく後退してフリッツとの距離を空けた。

 すべてにおいて万能な人間はいない。これはコーラルの戦闘の師であるグレアムの教えだ。
 九年前の事件後、グレアムの元で指導を受けていくうちに自分にバスタースペルなどの遠距離魔法のセンスがないことを悟ったコーラルは、ひたすらにある二点に磨きをかけた。
 そのうちの一つ――

「なっ!?」

 刹那、フリッツの表情が驚愕の色に染まる。
 十メートル先に立っていたはずのコーラルがまばたき一つの間に目前に表れればそれも仕方のないことだろう。

 遠距離の攻撃手段が少ないコーラルが極めたもの、それはミドルレンジを一瞬にしてクロスレンジに変える瞬発力。
 そしてもう一つ。

「はあっ!」

 マックススピードを崩さず、すべてを刀に乗せたクロスレンジの一撃。
 魔力を込めたその一振り一振りが中級砲撃魔法にも匹敵する破壊力。
 それはフリッツの模擬槍をいとも簡単に弾き飛ばし、打撃の余波はフリッツの体を数メートル先の壁に叩きつけた。
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