混沌のグリモワール~白銀の探求者~
「いててて……ちったぁ手加減しろよな」

 基本的に魔術師は体の回りに一定の魔力壁を展開している為、壁に叩きつけられた程度なら多少のダメージはあるものの怪我には至らない。

「手加減したつもりだったんだけど……ごめん」

「模擬刀で、しかも手加減してこの威力かよ。流石は執行部隊のエース様」

「よしてくれよ。エースなんて言葉、俺には荷が重い」

 コーラルはフリッツにゆっくりと歩み寄ると、その場に座り込むフリッツに手を差し伸べる。
 フリッツはその手を取り、立ち上がる……と共に思い切りコーラルを引っ張り倒した。

「んなっ!?」

 フリッツと入れ替わる形で壁に叩きつけられるコーラル。

「な、なにすんだよフリッツ」

「さっきのお返し。やられっぱなしは悔しいからな」

 そう言ってニヤリと笑うフリッツ。
 それに答えるように、コーラルは服のホコリを叩き落としながら苦笑いを浮かべた。

 ――そうして、二人の模擬戦が終わりを告げると同時に、任務の報告を終えたグレアムとリリィがトレーニングルームに顔を出した。

「またやっていたのか。しっかり休まないと身が保たないぞ」

 模擬戦によって汚れた二人を見て、グレアムが呆れたように呟く。
 そんなことを言っても二人は素直に聞く性格ではない。それがわかっているからこそ、グレアムはただ溜め息を吐くことしかできなかった。

「とにかく、任務報告も終わったから今日はもう解散だ。明日も朝、今日と同じ時間から訓練があるから遅れないように」

「はい!」

 ――こうして、第七執行部隊の慌ただしい1日は終わりを告げた。
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