無口な王子様

「ねえ、結局さ、和也くんはどうなったの?」

あの日から数日後、私がミシンをかけていると不意に亜由美が問い掛けてきた。

「え?!」

和也の名前に動揺したのか、縫い目が歪む。

「だからぁ、合格したんでしょ?オーディション。」

「あぁ……その先は知らないよ。」

「はぁ?知らないってどうよ!デビューしたんじゃないの?」

「デビューはしたらしいけど、そこから先は本当に知らないんだってば。」

「ってことは………」

「売れなかった……」
「だよね………」

私と亜由美は顔を見合わせて笑った。

「何それ!超カッコわるいじゃん!」

大好きだった人に対してそう言われても胸は痛まなかった。

それは多分、亜由美だったから。

「マジでダサいよー!」

爆笑する亜由美につられて、私も笑った。
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