Libra ~揺れる乙女心~


野球部の部室前には、優しい太陽が私達を照らしていた。



履き古したスパイクが部室の前に転がっていた。


部室の扉に書かれた落書き、先輩の書いた『絶対禁煙』の文字。


マネージャーで縫った応援の旗。




ここで毎日過ごしたね。


ここに来れば、何もかも忘れられた。


試験の点数が悪くても、

友達と喧嘩をしても、

この場所だけは温かく迎えてくれたんだ。




ここにいる部員やマネージャーの顔を見ると、悩んでいたことも忘れてしまうんだ。



そんな不思議な場所だった。


自分が必要とされることがこんなにも、幸せなことなんだと気付いた。



私…野球部の一員として過ごせたこと、本当に誇りに思うよ。



「先輩…寂しいよぉ!」



私の胸に顔を埋める次の3年生のマネージャー。


肩を抱きしめる。


「絶対、私達の夢、叶えてね。甲子園連れて行ってね」



また涙が溢れる。




甦るあの夏の記憶。



みんなの涙と

努力と、あの照り付ける太陽…




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