206[短編]
 濡れると肌が透けてしまう白のシャツを着ていたことと、その日の外気が思いの他低 かったこともあり、できるだけ雨に触れないようにアパートの壁に身を寄せていた。

 だが、雨はそんな典子の行動を嘲笑うかのように激しさを増す。

 呟いた独り事さえかき消してしまいそうな雨音は、辺りから物音を一切かき消してし まっていた。

 典子は体に触れる冷気に耐えられずに肩を抱く。「こんなことなら家を出る前に夏江に確認しておけばよかった」

 彼女は忘れっぽいところがある。約束したのが一週間ほど前ということもあり、不安 はあったが、大丈夫だろうと言い聞かせてやってきたのがこの様だ。

 自分の目論見が甘かったことにため息を漏らしたときだった。
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