約束
 元凶は私の両親で間違いないはず。

「木原くんがここに住むっていつ決まったの?」

 包丁の音だけが響くキッチンに立つ女性に尋ねた。今は、その腰まで伸びた髪を一つに後方で結っている。突如、その音が途切れ、彼女は私を見て、あどけなさの残る目を細める。


「昨日よ。今朝、言い忘れてごめんね」

「ごめんじゃなくて、どうして言ってくれないのよ」

「まあ、いいじゃない。雅哉君はいい子だし、気にすることはないわ」


 気にしているから、こう言っているのに。鈍い彼女はどうやら状況がつかめていないらしい。


「良くない」

 思わず言葉に力がこもる。

「もう決まったことだから文句は言わないの」
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