約束
「ありがとう」


 私は何も言えなくなりうなずくと、そそくさと部屋を飛び出した。


今日一日で一年分くらい心臓が働いた気がする。

絶対に顔が赤くなっているはずだ。彼に変な風に思われたかもしれない。

 足が震えるのを自覚しながら、階段をおりる。

 リビングに行くことにした。

 話をしたこともなかった憧れの人が一緒に住むなんて言われてもどうしていいのか分からない。

チャンスだと思えなくもないけど、私にはそんなポジティブに物事を考える余裕もなかった。前もって考える時間があれば、話も、私の状況も変わってきたのかもしれない。

 少なくとも今朝教えてくれたら、彼の前であんな変な態度をとったりしなかった。

 リビングの扉を開けた。リビングでは母親と姉が言葉を交わしている。姉はぬれた手を軽く払うと、台所の脇にあるタオルで手を拭いていた。そのままリビングを出て行く。
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