約束
 両親と姉は和やかにごはんを食べていたが、私の気持ちだけは違っていた。

変なことをしでかして、彼に変な女とか、下品な女とか思われたくなったのだ。

それなりに食欲旺盛だが、そのときばかりはお箸を滑らせてごはんをこぼしたりしてしまうんじゃないかと考えると、ご飯を食べるのでさえも憂鬱で胃が痛くなってきた。

 木原君を横目で見ると、彼は背筋を伸ばし、綺麗な仕草で食べていく。

時折、両親に話しかけられれば、食べているものを食べきり、笑顔で応じていた。

 余裕がなく小さくなっている私とはまさに正反対だ。それが私と彼の気持ちの大きさの差のように感じられた。

「今日は少食なのね。体でも悪いの?」

 母は不思議そうに首を傾げていた。理由を知っている姉はにやにやと笑っていた。

食べ終わったと告げる頃には心臓が疲弊しきってしまい、身体がだるさを覚える。

最後の方には自分のことで精一杯で、木原君がどんな顔をしていたなど確認ができなくなっていた。
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