約束
 彼はまた私に気を使っているのだろう。

 思いきり否定したのはまずかったかもしれない。

「晴実ちゃんから聞いたけど、木原君って、小学校のとき、よく迷子になっていたんだってね。昨日も晴実ちゃんがわざわざここまで来た理由分かるでしょう」

 彼女は木原君を案内したと言っていた。わざわざ案内しないといけない理由を考えたとき、あることに気づいた。

 木原君の顔が引きつり、頬が赤くなっている。それが答えだったのだろう。

 彼女は面倒見がいいから、たしかにありえなくもない。そういえば木原君と顔を合わせて笑っていたのも、そういう事情があったからなのだろうか。

 彼に言葉を伝えようとして、息を飲み込む。上手く言葉が出てこなかった。だが、今年に入って一番の勇気を出して彼に伝える。
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