黒猫眠り姫〔上〕[完]

彼女は、ずぶ濡れの格好で今にも泣きそうだった。

そんなのほっとけるわけがなかったんだ。

今思うと、あの時公園に寄ってよかったんだと

思う。

彼女は、自分をどこまでも否定して生きていた。

それがどうしようもなく悲しかった。

感情もいくつ捨ててきたんだろう。

泣きたいと何度思ったのだろう。

悲しいと誰にも言えなかったのだろう。

彼女の痛みを誰も気づいてあげられなかった

だろう。

彼女は、誰にもわかってもらえないと言った。

誰にも言えなくて誰にも気づかれない。

言葉で言えば簡単だ。

でも、それは想像以上に辛い現実。

泣いても叫んでも苦しいのに、

クールを保たせていつでも冷静さ

を失わず、泣きも叫びもしない。

彼女は、誰よりも強く生きたかったんだ。

泣いたってどうにもならないと

彼女は言ったことがあった。

でも、ホントは泣きたいのに

泣けなかったんだと思う。

初めて見た彼女の涙は、

限りなく綺麗だった。

悲しみも多く含まれるその涙に

言葉を失った気がする。

何も言えなかったのは、

何を言っても彼女の傷を

増やしてしまいそうだったからで

怖かった。

僕は何も言わない方がいいのかも

しれない。

言って傷つけたら自分に後悔して

しまいそうな気がした。

だけど、居てもいられなかった。

泣き顔が笑顔に変わって欲しい。

いつか心から笑って欲しい。

それを願うだけで言葉も同時に

出たんだ。
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