黒猫眠り姫〔上〕[完]

ほっとけない。引き寄せられるかのように

彼女に話しかけていた自分を思い出す。

よく喋れたものだ。自分自身が一番驚くことだ。

遠慮という言葉。

聞いたことなんてあるくせに鈴に遠慮なんて

出来なくてけっこう半ば強制で家に連れて行った

ような気がする。

今思うと強引過ぎただろうか。

でも、この性格は一生直らない。

桐にもよく言われる。

『そのマイペースさ俺にも分けろ。

俺なんていつでも切羽詰ってるんだ。』

そんなこと言われても正直困った。

それにマイペースとか言われても、

よくわからなかった。

普通が自分のペースだと思い込んでいる

僕には不可思議な言葉だった。

まあ、よく言うものだ。

そうやってあまり気にしないで

生きてきたせいか、鈴を見ていると

自分とダブらせてしまう。

何となく似た感性の持ち主。

それでも、鈴は自由さがどこまでも

許せる範囲で、その自由さに尊敬

する自分もいて笑ってしまう。

僕も充分マイペースな性格なのだと

言われても近くにいる鈴がこんなに

も自由人なら僕って凡人?

そう思ってはいる。

それでも、あの男は必ず言う。

『お前のその性格羨ましすぎだ。

ズリー。それでも、俺は好きだな。』

そう言われて悪い気はしなかった。

逆にいいのかという納得で、

こんな自分を少しだけど、

いいと言ってくれる人がいるんだ。

自分に絶望なんてしてられない。

そんなのする意味もないほど、

世界は目まぐるしく回り続けているんだ。

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