彩葉唄




澄んだ湖を覗き込む。
何処までも透き通っていて、何処までも汚れていない。
水面には木々が映っている。だけど、彼の姿は映っていない。

「‥‥」

右肩に深々と突き刺さっていた小刀を無造作に抜くと、彼はそれを湖に沈めた。
小刀についていた紅い血は、水と混ざり合うことなく、水面に浮かび上がる。
何処までも沈んでいく小刀。
拒絶するかのように浮かび上がる血液。
彼は待ち人が来るまで、湖の近くに座り込み、目を閉ざした。



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