白の世界
「あの、いつもライブハウスだと、あまりお話ししてもらえないんで・・・。」

あたしは、少しの沈黙のあとそういって話しを始めた。

「あんまり、話したくないのかな、って思って。あたし接客業をやってるのに、普段はかなり人見知りで。自分からあまり話しかける方じゃないから。」

「俺もそう。話しかけてもらえると話すんだけど、自分からはなかなかいけないんだよね。」

「なんだ、あたしたち、同じ人種だったんだ。」

あたしたちは、お互いの顔をちらっと見返して笑ってしまった。

一輝は、少し緊張が解けたようで、残っていた発泡酒を一気に飲み干したあと、ポケットからたばこを取り出し火をつけた。


今日も、一輝の瞳は綺麗で、吸い込まれそう。
アルコールが入ると、いっそうその瞳は憂いをおびて、なんともいえず、魅力的になるのをあたしは知っていた。

いつも、FISH WIFEのライブに行くときは一輝の事しかみていないのだ、最近。
それは、恋と言うよりは、ファン心理に近いものだと、自分では思っていたのだけど。


「結構前だけど、咲さん、ギターかっこよかったですよ。」

「あ、あの新曲お披露目の時に来てくれたんだよね。一輝くんが居たから、かなり緊張した。でも、あん時も可奈はべろべろだったよね。」

「俺、可奈さんは酔ったところしか見てないかも。」

「可奈はね、酒がないと生きていけないんだよ。スタジオでもいつもあんなだもん。」

「そうなんですか。さすがですね。って俺もいつも酔っぱらってるけど。」

「確かに、一輝くんも酔っぱらったところしか見たことないなぁ。ま、そんなもんなんだよね。あたしたちの周りって。」

また二人で小さく笑い合って居ると、憲次がコンビニの袋を下げて戻ってきた。



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