危険ナ香リ


 こんな時に佐久間先生は側にいてくれていたのに。


 今はいない。


 ……追いかけてくれるとは、思わなかったけど。


 でも、それでも、やっぱり期待してしまっていた。


 佐久間先生が、追いかけてきてくれると期待していた。




「好きなんだな」




 祐の声には、確信したような、そんな色が混じっていた。




「……」

「恭子」




 ……なんであたしは、佐久間先生が追いかけてきてくれることを期待していたんだろうか。




「……ねぇ、祐」

「なんだ、話す気になったか」

「祐は、どうしてあたしを追いかけてきたの?」




 今までの会話から大きくズレた言葉に、祐は嫌悪感を表すことなく、そっと指先の力を強くした。


 それから、優しく頬を撫でてきた。




「だって、恭子が泣いてたから。泣いてる奴は慰めてやらなきゃいけねぇだろ?」




 優しい声だった。


 だからこそ、佐久間先生の声と重なって聞こえた。


 ……虚しいな。


 やっぱり、祐には悪いけど、あたしは佐久間先生に追いかけてきて欲しかった。


 “泣いてたから”そんな理由でもいいから、追いかけてきて欲しかった。




「……あと」




 なんで追いかけてきて欲しかったのかな。






「やっぱり、大好きだから……泣いてたら、側にいてやりたい」






―――― 追いかけてくるということは、少しでも、好意があるってゆうことだと、どこかで分かっていたからかもしれない。




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