【完】最期の嘘
「おい、あんた一人か?」



びくびくする自分と強い決意の間にいた汐に男のバリトンの低い声がかかる。



振り返るとそこには、暁のドラマーのハイジが中折れハットグラサン姿で立っていた。



顔が良く分からないこの状況でもハイジの出す鋭いオーラは否応なくハイジを目立たせる。



「あ…えと、すみません。」



「なんで謝るんだよ。…まあいいや。俺、どうやらあんたの隣みたいだし、一緒に観るか?他のメンバーはチケット取れなくて俺も一人だし。」



少し怖い印象のハイジだが、礼治の言う通り『いい人』である。



一人が心細い汐は、素直にハイジに従うことにした。
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