【完】最期の嘘
部屋に戻り、ライブの余韻の残るまま、汐は携帯を取り出した。



操作し、ダイヤルを回す相手は自身の恋人。



シュガビのライブで、順平の歌う楽曲の歌詞に背中を押されたからである。



「待っているだけじゃ、きっとなにも始まらない。」



息を呑み、そっと通話ボタンを押した右手の親指には、違和感があるほどに力がこもる。



『もしもしー?』



9コール目でやっと出た相手は心底けだるげである。



「もしもし…私。」



ほんの小さな勇気を振り絞り、汐は震える右手を左手で支えた…………。
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