雨降りでロリンズ
「ボクのこと、馴れ馴れしい奴だと思ってるんでしょう」

彼は少しも怯まずに、ニヤリと笑った。

「その通りよ」
と、カオリは男から離れながら言った。

「誰にでも声をかけるような男だと、思っているんでしょう?」

「違うの?」

「だとしたら、あなたは自分を低く考え過ぎているな。
そこら辺にいる女の子と同じように、
自分のこと思っているんですか?」

なかなかのセリフだと思ったが、風態におよそ似合わない。

男は顔とは言わないが、言っていいセリフと悪いのとがある。

爽快さなど微塵もなく、滑稽感まで漂ってくる。

カオリはその点に同情を禁じ得なかったが、
彼女にも趣味というものがあった。

男は中肉中背。
がっちりとしているがどこか鈍重。

硬そうで多めの髪。
多分、フケ性なのに違いない。

「悪いけど、興味ないわ」

と、カオリはまるで顔の前をブンブン飛んでいる蝿でも追い払うような仕種と共に、そう冷たく言い放った。

「し、しかし、ロリンズのブローは絶品なんだがなあ」

(注:この場合のブローとは、サックスを吹くことをいいます)

男は慌てて食い下がる。

「そうじゃなくて」

「フィノ・アモンティリャードが嫌いなら、
何か別の飲みものを」

必死のあまり、唾液を飛ばしながら言い募る。

「あのね、興味がないのは、あなたなの」

カオリはとどめを刺すように言った。
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