365回の軌跡

夏の夢

長かった梅雨も完全に明けて、季節は夏本番に突入していた。鳴り止まない蝉の鳴き声と、鬱陶しい程の夏の暑さは相変わらずだ。
「へぇ~、介護の仕事してるんだ!」
私は以前傘を借りたことがきっかけで知り合った青柳優雨といつものイタリアンレストランで食事をしていた。これで会うのは5度目になる。
「そうなの。もう五年目になるかな」
「じゃあベテランだ! 介護は確かに面白そうだよね!オレも少し興味があるんだ」
優雨はそう言うとワインを一口飲む。
「優雨はなんの仕事してるの?」
五回も会っているのにこういう話はあまりしてこなかった。何故かは分からないがお互いに遠慮がちな部分があったのか。ただ打ち解けていることは事実で、現に私はもうタメ語で呼び捨てで話ができた。
「オレは…まぁ家業手伝いってとこかな?」
「へぇ~、ってそれぢゃ分からないよ!具体的に教えてよ」
優雨はもう一口ワインを飲む。今日はだいぶ飲んでいる。
「まぁ親父が小さな会社をやってるから、その手伝いてか、勉強中みたいな感じだよ」
「お父さん、社長さんなの?すごいじゃ~ん!」
私は納得していた。確かに初めて会ったときから、お坊っちゃんぽい感じがした。
「でも介護って大変だろ?難しそうだし」
急に話を振ってきた。
「まぁね。でも楽しいかな。色々な人と関われるし、すごい勉強にはなってる」
私は素直に言った。
「すごいね!やりがいをしっかり感じて働いてるなんて、偉いよ!」
真っ直ぐに言われて恥ずかしくなる。あと…ドキドキする。
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