365回の軌跡
「お昼を用意したんで食べてください!」
私は新しいご利用者様、倉持さんに言った。
「いらん」
倉持さんはベッドで横になったまま、ラジオを聞いている。
「お昼作ったんで少し食べてください。お薬も飲まないといけないんで」
私は更に声を掛ける。五年の中にはこういう方も何人か見てきていた。自信はあった。
しかし倉持さんは私の声掛けに反応すらしなくなった。
「倉持さん!」
私は料理をベッドの机の上に置くと、再度声を掛けた。
「倉持さ~ん!」
瞬間、倉持さんが私を睨みつけると、右手で机ごと投げ飛ばした。
「ガシャ~ン!!」
食器が床に散らばり、食べ物が散乱する。
私は夢でも見るかの様にその場に立ち尽くした。
「…え?」
「片付けろ」
倉持さんは一言言うと何もなかったかのようにベッドに横になった。
私は食器を片付ける。割れた食器を掴もうとして指を切った。赤い血液が指から流れ出す。
私は立ち上がると倉持さんに向き直った。
「ちょっとくらい食べてください!また作ってきますから!」
私は片付けを済ますと台所へ向かった。
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