365回の軌跡
倉持さんは毎回、私の料理を食べようとしなかった。時には無視され、時には暴言を吐かれることも多々あった。泣きながら倉持さんの家を後にしたこともある。
「ねぇ、ウメばあさんくらいの歳の男の人って、どんなの好きで食べるかなぁ?」
私はウメばあさんの家をホウキで掃きながら聞いた。
「そうだねぇ…やっぱり昔ながらの和食かねぇ」
ウメばあさんは庭をホウキで掃きながら答える。
「和食ねぇ…。」
ある程度の和食なら作った。だが倉持さんは口にすら運んでくれないのだ。
「じゃあさ、頑固な人の心を開かせるって、どうすればいいかな?」
私は質問を変え、ウメばあさんに聞いた。
聞かれたウメばあさんはしばらく動きを止め、考えていたが、思い付いた様に言った。
「我慢かな」
「え?」
「頑固な人って自分でも案外頑固って気付いているもんだよ。もし頑固な人がいて、意地悪を言うのであれば、ずぅっと我慢してごらん。その人は我慢している沙紀ちゃんを見ているからね」
「我慢…ねぇ」
私は既に我慢しまくりだよ…と心の中で呟いた。
「堅い人には柔らかい人が包んであげれば、お互いに歩み寄れるもんさ」
ウメばあさんは独り言の様に呟くと、ホウキを持ち直した。
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