365回の軌跡
私を始め、手紙を読んでいる時、部屋の中にいた誰もが涙を流していた。頑固で何も語らなかった倉持さんが残してくれた手紙。私は元の様に折ると、ノートを手に取った。中を開く。
「…!」
そこには日付と私の作った料理の献立、そして細かいメモが書いてあった。
メモを良く見る。
(塩味が強い。)
(もう少し焼いた方がいい)
(盛り付けはこんな感じに)
「これは…」
息子様にノートを見せる。息子様はしばらくノートに目をやり、私を涙で濡れた目で見た。
「宮川さんが作ってくれた料理に一つ一つアドバイスを書いたみたいです。親父、ずっと店やってましたから」
「そうだったんですか!」
私はノートにまた目を落とす。頑固な倉持さんがくれた優しさ。それは確かに形となって私に伝わった。倉持さん、私こそありがとう。このノートを見て料理を作ってまた誰かを笑顔に出来るように頑張ります。
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