ロ包 ロ孝
 確かに根岸は堅物そうに見えて、その実くだけている所も有る。しかしまだ音力へ全幅の信頼を寄せられないでいる俺は、何かにつけて疑いの目で見るように気を付けている。

俺達が持つ『蠢声操躯法免許皆伝者』としての能力はそれだけの利用価値が有る。それを悪用されない為にも、油断は断じて禁物なのだ。


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 そうこうしている内に俺達は繁華街へと到着していた。まだ時間的に早い頃合いではあったが、既に出来上がってフラフラしているスーツ姿を何人か見掛けた。

「課長、あそこはどうです? ほら面白そうですよ?」

 彼が示した先に、鉄道バー『鉄子の部屋』という看板が見える。入り口に警報器が立っている有りがちな演出だ。俺は大して気乗りもしなかったが、三浦に言われるまま中に入っていた。

「いらっしゃいませ! 2名様ごあんなぁぁい」

 暖簾をくぐって案内されたそこは、なんの変哲もない普通の居酒屋に思えた。壁に所狭しと張られている鉄道写真が一応の方向性を示しているのだが、しかし俺に取って幸せな演出がもう1つ有ったのだ。

「すいません課長。普通の店でしたね」

「いいじゃないですか。入ってみなけりゃ解らないんだから」

 三浦はそう言って恐縮している。でも実の所、俺の目はホールの女の子に釘付けだった。車掌の帽子を被った彼女達は、大きめのワイシャツ1枚だけのアラレもない姿で給仕していたからだ。

女好きの俺としては大歓迎の演出だったが、三浦の手前、素知らぬ振りを極め込む事にする。

「ご注文はどうなさいますか?」

 そのセクシーな女車掌さんに俺達は、ライムサワーとコーラ、焼き鳥の盛り合わせに煮付けを2種類頼んだ。


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