ロ包 ロ孝
「実はこういう者です。以前にうちの北田がお邪魔したと思います。
 今も部下の三浦以下4名がお世話になっていますので、お礼を申し上げなければと思いまして」

 舘野さんは忍者だ。一般の人間と比べて、洞察力も勘も並外れて鋭い。変に疑われなければいいのだが。しかし彼女は振り返りざまに言う。

「ふんっ! 何言ってんだい」

 ……やはり何か感付いているのだろうか!

「ふんっ! ふんっ!」

 舘野さんは鼻息も荒くうろうろと店内を歩き回っている。苦虫を噛み潰したようなその表情は、腑に落ちない事が有るからに違いない。

「何かお気に障る事でもございましたか?」

 それでも俺はあくまでとぼけて質問をする。しかし全身に神経を張り巡らせ、すぐさま攻撃を回避出来るように準備していた。勿論それを彼女に悟られぬよう、筋肉の1本も動かさずにだ。

ここで舘野さんとやり合う気は毛頭無い。しかしこの空気を打開する為、舘野さんに真意を聞かねばならない。

甲賀忍法についての調べがようやく終わった俺だが、伊賀のそれについてはまだ入り口にも触れていない。然るに舘野さんから放たれる攻撃の予測は全く不可能なのだ。

普通の状態ならば相手の攻撃を更に上回る力でねじ伏せればいい。しかし相手は舘野さんだ。怪我をさせたくはない。

「舘野さん。どうかなさいましたか?」

 いやな汗が幾筋も背中を伝っていくのが解る。舘野さんと対峙しているこの数十秒が、まるで流れて行くのを躊躇うかのように、遅々として進まない。

 彼女は手の平で耳をトントンと叩きながらまた、こちらを振り返った。

 何をする気だ?

 俺は盾の【列】(レツ)をいつでも張れるように息を吸う。肺一杯に空気を満たすと、喉を絞った。


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