ロ包 ロ孝
 あの高倉家での騒動がまるで嘘だったかのように月日は流れた。ウィークデーは何の変哲もない日々。少々変化が有ったとすれば、ぎくしゃくしていた里美との関係が、今はお互いを信頼し、尊敬し合う間柄になった事ぐらいだ。

……いまだ口に出して『里美』と呼べずに居るのはもどかしい所だが。

しかし週末の過ごし方は一変した。俺達は率先して修練にいそしんでいる。


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「坂本さん。今日でいよいよ【第四声】修得ね」

「ああ、これでお前と離れていても話が出来るな」

 あの巻物が手元に有る分、観念的な部分の理解や修練を前もって実践出来る為、俺達はめきめきと腕(喉?)を上げた。

里美も【第五声】(蠢声操躯法でいうところの【者】)を終え、【第六声】(同じく【皆】)の修練を行っている。

「山崎さんも坂本さんも素晴らしい上達ぶりですネ。
 では皆さん。各段階のブースにそれぞれ分かれて下さい」

 皆が同等に終了している段階の場合にはひとつの会場に集まって修練するが、進度の違いが出ると各個の段階に応じて、それぞれのブースが用意されている。
専用ブースに窓は無く、中からは僅かな音さえ漏れて来ない。

「……山崎さん」

「はい」

 岩沢が里美に修練を付ける為にやって来た。ブースのドアをロックすると口を開く。

「お2人が一緒に頑張っておられるのは大変好ましいのですが……会規は守って下さい。
 八条『守秘義務について』の三項『事前告知の禁止』です。
 今山崎さんの行っている修練内容は、くれぐれもご内密にお願いしますね」

 岩沢の声は優しく響いたが、彼の顔は少しも笑ってはいない。いつになく真剣な眼差しを向ける岩沢に里美は少しおどけて返した。

「はぁぁい。でもぉ、岩沢さんもあたしに教えてくれようとした事、有りましたよねぇ」


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