ロ包 ロ孝
 すると、里美と同じ軍服姿の将校然とした男が里美の乗った戦車に駆け登り、彼女に何か耳打ちした。

「もう時間切れね。総書記がおみえになったわ。御前で散り花を咲かせられるのを光栄に思いなさい?」

 先程と何ら変わらぬ口調で里美は言い放つ。マインドコントロールが解け掛かっているという俺の願いは、からくも打ち砕かれた。

「さ、里美さん。なんで敵側に……。
 坂本さん! これは一体どういう事なんですかっ!」

 やっと俺の所まで来た渡辺が、この事態に気付いて立ち尽くしている。

「達っつぁん。話せば長くなるがな、里美はここの国のスパイだったんだ」

「長くないじゃないですかっ!」

「達っつぁん。……あなた……生きてたの?」

 すると里美が幽霊でも見るかのように狼狽える。渡辺達は総書記の乗ったヘリに殺されているとでも思っていたようだ。

「坂本さん! 私達も一緒よ! なんて事をしてくれたんっ?」

 大阪支部のメンバー達が叫んだ。

「山本さん。あなた達まで……」

「坂本さんはウチらのことも騙してたんやね! アンタ、恥ずかしないの? そのお腹の子のお母さんとして!」

 山本達には身ごもった子供の事を話していた里美。その時にはマインドコントロールされていなかったのではないだろうか。

「さ、坂本里美。それは世を忍ぶ仮の姿よ? そ、そう。
 アタシは金 智賢(キム・ジヒョン)
 貴方達の知っている里美は死んだのよ!」

 里美の声はうわずり、少し震えているようだ。今度こそマインドコントロールが解け掛かっている!

「坂本さん! 貴女は言ってたでしょ? この子の為にもいいお母さんになりたいって! それがこないな事をしてええの?」

「それは坂本里美の言葉。貴女達がまんまと騙されていただけだわ?
 あたしは金 智賢。
 海鮮民主主義人民共和国連邦の陸軍大尉よ!」


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