ロ包 ロ孝
「じゃあ……フッ」

 溜め息混じりに消え入りそうな声で言うと意を決したのか、もう一度はっきりと、しかし格段に甘ったるい声で俺に囁く。

「じゃあこれから、人が来ない場所に行く?」

 上目遣いで悪戯っぽく見上げ、その胸に俺の腕を押し付ける里美。その大きな瞳を潤ませて俺を見詰める可愛らしさと、花の香りに混ざって彼女から立ち昇る女の匂いとで、とうとう俺は我慢が出来なくなった。

「よ、よし行こう、里美」

 半ば乱暴に手を取って歩き出す俺に、里美は跳び付きながら言った。

「ホントに? 嬉しい!」


∴◇∴◇∴◇∴


「ここも駄目か。しかし全っ然空いてないなぁ」

 今日は土曜の夜だ。散々歩き回ってはみたが、目欲しい所は皆満室だった。

「仕方ない。残念だけど、今夜は無理みたいだな……」

 やる気満々で妄想に溢れ返っている頭の中とは裏腹に、それとは正反対の台詞が口を突いて出てしまう。

「そうね。せっかく坂本さんと2人きりになれると思ったけど、入れるのはムードの無いところばかりだったものね」

 ナニッ? ホントにやめちゃうのか? どうして。

当然食い下がって、なんとか入れる場所に落ち着くと思っていた里美が、こうもアッサリ諦めるとは思いもよらなかったのである。

「やっぱり雰囲気がいい所で可愛がって欲しいもんっ」

 しまった! そう来るのか! こんな事なら無理だなんて言わなきゃ良かった!

女ベタな俺には、そんなデリケートな乙女心など解ろう筈もない。

『後悔先に立たず』

『口は災いの元』

である。


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