ロ包 ロ孝
 仕方なく(と思っているのは俺だけ。里美は実に楽しそうだ)喫茶店でお茶をしている俺と里美。

「ねぇホラ、見て見て?」

 俺の煙草を立てて彼女は「ぱっ」と小さく発声する。

「あれ? 待って、もう1回。……ぱっ!」

 2回目に彼女が発声すると、パタリと箱が倒れた。

「やったぁ! ほら、あたしもなかなかヤルでしょ?」

 彼女が使ったのは打撃射手活性共鳴発声の【皆】(カイ、第六声)だ。音波が塊となって対象物に打撃を与える。

実際に行う時は「だ」の音を使うのだが、威力を押さえる為にそうしたらしい。これは里美流の【皆弱】(カイジャク)という事になる。

「ほぉ、全力を出したらどんなモンなんだ?」

「あたしにかかれば、サンドバッグなんて大きめの枕みたいなものネ」

 嬉々として彼女は言う。そう、この「あたしにかかれば……」は里美の口癖だ。

急に明るくなって(つまり音力で蠢声操躯法を修練し、力を付けて)からというもの、コイツはいつも自信たっぷりにこう言うようになった。

「お前のその口癖、イヤだったんだよなぁ……」

「え? 何? 今なんか言った?」

「いやいや、こっちの話だ」

 その頃俺は、里美が自分から遠退いて行くようで、いつもやるせない気持ちになっていた。

当時は何が有ったのかも解らなかったが、大人しくて目立たない存在だった里美が、どんどん日の目を浴びて注目されていく。そんな彼女を見るに付け、俺は人知れず嘆息を吐いていたのだ。

しかし今は違う。

里美と共に修練し、高倉家の秘術を何らかの形で奪った者を探り出す、大きな目的が出来たのだから。


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