ロ包 ロ孝
「そうですか。しかし前々から疑問だったんですが……我々サークルのメンバーがこの術を修得する事で、音力に取って何の利益が有るんですか?」

 事務長はこちらを見もせず、肩越しに返答する。

「それは、残念ながら私にも詳しく説明出来ないんです。特に【第十声】修練者は、音力であって音力でない扱いになっていまして……」

 どうもはっきりしない。俺はイライラして聞いた。

「何を仰ってるんですか? 全く意味が解りませんよ。一体どういう事なんですか!」

 今迄俺達メンバーは、参加料として月1万程の金を徴収されて来た。

しかし事務長が言うには【第十声】の修練段階になると運営側から打診があり、契約を交わせば報酬が支払われるようになるという。しかもその運営側の音力は、自己啓発セミナーである音力とは組織的に全く異なる存在だというのだ。

「私もよく解らないことだらけなのですが、正直ここの給料は破格なので……敢えて考えないようにしているのです」

 それが規則でもあるので……。と事務長も申し訳なさそうに説明してくれた。

要はその運営側の音力(俺達が政府の特殊機関だと踏んでいるそれ)が憎き友のカタキであり、諸悪の根源なのだ。

「では坂本さん。こちらにおいで下さい」

 事務長に案内された【第十声】の為に作られたブースは、今迄のそれとは全く趣を異にしている。破壊力の桁外れな大きさに備えてより頑丈に、より広く出来ていた。

中は真っ暗で、蜂の巣状に組まれた太い鉄骨が幾重にも重ねられた先に的が置いてある。さながら小規模のホール程に広い部屋内に、センサーの赤や緑の光と的を照らす照明だけが闇から浮き上がっていた。


< 82 / 403 >

この作品をシェア

pagetop