ロ包 ロ孝
 彼等が死んだ原因は『自らの声の振り戻し』……だとすると音力は故意に垣貫達を死に追いやったのではなく、単なる不測の事態だったという事になる。

話の繋がりから、根岸が咄嗟に嘘や出任せで誤魔化しているとも思えない。これこそが真相なのだ。

「……だったら……それなら何で、もっと早く調査をしなかったんだ! どうして垣貫迄死ななければいけなかったんだ!」

 俺は怒りの矛先をどこに向けたらいいのかも解らず、ただ拳を握り締めているだけだった。

「済みません。本当に申し訳ありません。『お役所体質』の弊害がこんな所に迄出てしまいまして……」

「根岸さん。笑えませんよ? それ」

 俺は目から火が出る程の勢いで根岸を睨んでいた。

「冗談で言ったんじゃ無いのです。済みません」

 彼は俺の瞳の奥に有る殺意にも似た衝動を感じているのか、腫れ物にでも触るような口振りだ。

「垣貫さんには……勿論千葉や岩沢にも補償はしっかりとさせて頂きます。我々に出来る事はそれ位しか有りませんから」

 カネで死者を蘇らせる事は勿論出来ない。垣貫はもう二度と帰ってこない。近親者を失った悲しみは何を以てしても補填出来る物ではないのだ。

しかし後に遺された者に取ってそれは、何かと足しになるのも間違いではない。ご遺族の方々には是非とも充分な補償をしてあげて欲しいものだ。

「しかし合点が行かないのは、何故音力は術者の育成を一般から募って行っているのか、そしてその目的は何なのかという所です」

「おっしゃる通りです。それもこれから全てお話致します。……坂本さんが思われているように、我々は政府に属する機関です」

 根岸は俺がいだいていた疑問の核心へと話を進めていった。


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