ロ包 ロ孝
「そんな! 滅相も有りません。お爺様の所へは賠償金をお渡ししに行っているのです」

 やはり金で懐柔されたか!

俺は無力感で椅子に座っている事さえ困難になっていた。

「坂本さん。大丈夫ですか? ちゃんと順番にご説明致しますから」

 根岸が言うには……祖父からは術の内容を聞き出せないとの判断から、巻物を盗み取ったのだという。その事について謝罪すると祖父は理解を示したらしい。

事故の調査を始めるとすぐ、垣貫の交友関係から俺の素性が知れ、祖父の所で里美と【前】(ゼン)の修練をしている事も解っていたようだ。

密偵として秘密裏に行動したつもりの俺達だったが、結果的にはいいように泳がされていた事になる。

そんな気配を微塵も見せなかった音力に対して、疑念は募るばかりだが、どうやら根岸はこちらが聞いた事全てに答えるようだ。俺は核心に触れてみた。

「それで一体、垣貫の死因は、事の真相は何だったんですか?」

「はい。詰まる所は音力式の【前】が不完全だったという事なのです」

 過去の史実と他の術とを照らし合わせて推測し確立した音力式【前】は、破壊の後に起こる声の振り戻しを考慮に入れていなかった。

結果術者は自らの声に殺されたというのだ。

「【第十声】を活性発声としなかったのは、まだどんな効果が有るのかあやふやだった為なのですが、まさかあのような事になるとは思ってもみなかったのです。
 お爺さまに教えて頂かなければ、更に犠牲者が出ている所でした」

 何だと? 金に目が眩んだのか、あのクソジジィめ! そんな事迄音力に漏らしているのか?

しかし、以前祖父が言っていた「【前】を放つ時に気を付けなければならない点」というのはそういう事だったのか!


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