ロ包 ロ孝
 音力は術者を育成する機関であると共に、育成した術者を動員し、諜報活動及びゲリラ活動他を行う超秘密裏な組織である。

育成機関である音力と、各活動を行う音力とは一本のホットラインのみで繋がれた全く別の組織であり、後者は政府直属の機関として位置している。

メンバーを一般から募っているのは政府と無関係な立場にある人間を欲しているのに加えて、何より元々から素質が無い者には術の修得が難しいからで、政府側にはその素質を持つ者が殆ど居なかった。

実際根岸も3倍活性共鳴発声の【者】(シャ、第五声)以降の術を修得する事は出来なかったという。

「術を修得する為の素質は唇の形、口腔内の形状や骨格等と密接に関係しているようですが、第四声【闘】を修得出来る人は3人に1人か2人。その内第五声【者】以降に進める人は更にその中の15から20分の1に過ぎないのです」

 それぞれ術の呼称を番号にし、修練している術迄しか詳細を教えない規則を作ったのも、修練を辞めたメンバーから一般社会に術が知れ渡らないようにする為だったのだ。

「なるほど、どれも理には適っていますね」

 今迄頭を悩ませていた疑問が次々と解決していく中で、俺は最も重要な事を聞いた。

「それで……音力は私に何をしろと言うんですか?」

 根岸は勿体付けるように腰掛け直し、そしてゆっくりと口を開いた。

「坂本さんには、エージェントとして音力の一員になって頂きたいのです」

 え? 今の仕事を放り出して? それにそんな危険な仕事を誰が好んでやると言うんだ?

諜報活動やゲリラ活動など、いくら蠢声操躯法を修得しているにしても、全く経験が無い俺には務まる筈もない。


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