ロ包 ロ孝
『おお、淳よ。あやつらが賠償金として持ってきたのは幾らだと思う?』

 やはり思った通りだ! 祖父はすっかりカネボケ振りを発揮していた。

『1千万じゃぞ、1千万! それに月4日の講師料が80万じゃ、1回20万じゃぞ?』

 何かそこに大志が有るのでは、なんてほんの少しでも思った俺が馬鹿だった。

「でも爺ちゃん。いいのか? 高倉家の秘伝を売り渡してしまって」

 俺は蠢声操躯法宗家としての高倉家が向かう行く末を案じた。だが祖父は凛とした声で言い放つ。

『売り渡すとな! 違うぞ淳。これからは日本国の秘術として蠢声操躯法を伝えて行くんじゃ!
 お国を守る術(スベ)としてな!』

 祖父の言葉は金に汚い駄目ジジィのそれではなく、将来をしっかりと見据え、揺るぎない信念がみなぎっているように聞こえた。

『それにホレ、肝心な裏九手はわしらの手の内じゃ、淳よ』

 そうだ。まだそれが残されていた。

裏蠢声操躯法(ウラシュンセイソウクホウ)

錯乱音波の
【青龍】(セイリュウ)

敵を脱力させる
【白虎】(ビャッコ)

地獄耳で小さい音も聞き逃さない
【朱雀】(スザク)

3倍力を他人に施せる
【玄武】(ゲンブ)

敵を吹き飛ばす
【空陳】(クウチン)

対象物を叩き潰す
【南斗】(ナンジュ)

空中浮遊と超跳躍の
【北斗】(ホクト)

羽虫を集めて操る
【三台】(サンタイ)

そして全ての生き物を焼き尽くす
【玉女】(ギョクニョ)

この九手は全て口伝の為、音力には伝わっていない。

『それを高倉家、いや坂本家の秘伝として伝えて行ったらどうかの?』

「え? ど、どういう事?」

 母の家系である坂本家は、元々うだつの上がらない下級武士だった筈だ。当然伝承していく秘伝や秘術など有りはしない。

『淳も意外と鈍いのぉ、いいか?』

 祖父は続けた。


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