ロ包 ロ孝
『高倉家の秘伝は、お前の父が受け継がなかった時に途絶えたんじゃ。
 これからは淳、お前が裏蠢声操躯法の宗家となるのじゃ』

 降って涌いたような話ではあるが、俺が受け継がなければ高倉家代々のご先祖様に申し訳が立たないような気がした。

『どうじゃ? 淳よ』

 戦国時代に起こったであろう、血で血を洗う戦い。それがまるで自らが体験したように頭の中を駆け巡る。

術を修得出来ず、無念の内に斬り殺される者。ただ一輪の花を守る為に術を放った者。戦いの末に家族を失って涙に暮れる者。

そのひとりひとりの思いが双肩に重くのし掛かって、宗家として生きる事こそが俺の運命だと思わせる。

「解ったよ、爺ちゃん。里美と頑張ってみるよ」

 再び里美に結果を報告した俺は、携帯をポケットにしまうと【第十声】のブースで待つ根岸の元へと急いだ。

「お待たせしました。祖父とも相談した結果、私も山崎共々お世話になる事に決めました」

 根岸は待たされた事をおくびにも出さず、にこやかな笑顔で言った。

「それは良かった。坂本さんにそうして頂くのが、我々音力の望みでしたから」

 まるで「当然の結果だ」と言わんばかりに、根岸は何度も深く頷いた。

「でもお願いが有るんです」

「はい。それはなんでしょうか」

「まずひとつは、私の有能な部下を1人連れて来ます。彼にもし素質が有ったら免許皆伝後、私達のチームに加えて欲しいんです。
 もうひとつは、私達が現役を退く権利とその時期の決定権を与えて頂きたいと思います。引退後は勿論、術者育成のお手伝いをするつもりです」

 根岸は暫らく無言で俺を見ている。しかし微笑みは崩さない。


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