王国ファンタジア【流浪の民】
「私には過去が無いので、お前の痛みを全て理解する事は出来んが」

「過去が無い?」
「私は拾い子なんだよ」

 ニコリと笑う。

「なんだ、捨てられたのか」

 いや、それってオレと同じなんじゃ?

「さあ、それもどうかわからん。何せ記憶が無いものでね」

「記憶が無い……」

 もし……それが苦しいものなら、その方がいいじゃないか。

 その記憶に涙を流す事もない。

「お前に祈りを捧げている者がいるようだな」

「!?」

 ベリルは、驚くキルテのパンツのポケットに人差し指を示した。

「そこから、柔らかな気を感じる」

 そこにあるのは小さなウサギの人形。

 宿屋の双子の少女たちが、2人の無事を祈りキルテとエークに贈ったものだ。

「……」

 純真な心。キラキラとキルテに向けてきた瞳。
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