王国ファンタジア【流浪の民】
「ベリル」

 セシエルが心配そうにベリルを見つめる。

「……」

 しかし、ベリルの口元にはうっすらと笑みが浮かんでいた。

「まあ、大体そんな事だろうとは思っていた」

「! お前、知って?」
「少しくらい、自分が何者かを考えるさ」

 目を細めるベリルの脳裏に、拾われる前の映像が浮かぶ。

 ただの暗い人影でしかなったソレは、明らかに普通の人間とは服装が違っていた。

 私を“人”として扱っていた記憶がない。

 ペットを愛でるような、子犬を調教しているような。

{土くれのキサマが我を倒すだと? 笑い話にもならん}

 ドラゴンのうなるような笑い声が辺りに響いた。

「言いたい事はそれだけか」
{! なんだと?}

 ベリルがドラゴンを見上げる。

 その目には、何の感情も示されてはいなかった。
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