王国ファンタジア【流浪の民】
 しばらく食堂の回りを歩いていたベリル。

「!」

 目の前から、何やら人ならぬ気配。目をこらすと、それは大きな白い狼。

「くうぅ……」

 白銀の毛皮と、緑の瞳。子どもなら軽々と背に乗せられるほどの大きさだ。

「! セツキ! 何してるんだよ……いきなり駆け足でどっか行くからびっくりしただろ」

 狼を追いかけてきたであろう少年が、驚いて固まる。

 猛獣である雪狼が、青年の足下にのどを鳴らしてすりよっていた。

「うそ」

 見ず知らずの人に懐いてる。

「これはお前の雪狼かね?」
「えっ!? いえ、あの」
「どうした? レジィ」

 夜の街の暗がりから、落ち着いた声が響く。

「! おっ? おお」

 男はベリルに駆け寄った。

「……男か」
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