クロスロード
「日高君……今昼休みだから。みんないるから声抑えて……」
「くはっ、そーいえばさ、押し倒すの実行したか?」
……私の言葉は聞こえなかったみたい。
「しないよ……」
無理矢理キスはしましたが、とは流石に言えない。
日高君はつまらなそうに眉を寄せ机に手をつき、私の顔を覗き込んだ。
「目の前で脱ぐってのは?」
「っだからしないって!」
その前に顔を近づけるのをやめてほしいんですけど…っ!
私の反応を見てニヤっと笑う彼はエスだかエムだか分からない。
翠君にだってこんなことされないのに……と小さく罪悪感。
「たく、アイツも変だよな?同じ敷地内に住んでるのに」
「そうだね……」
「あれか?本当に結婚するまでは手出さないってポリシー?」
「……それは違うと思うよ」
そうだったら婚約前日みたいなことしないはずだし……
と言うか、どうしてこんなに考えてくれるんだろう。
確かに男の子の意見は聞きたいし、相談に乗ってくれるのは有難いけど……
そんなことを思っているのが顔に出ていたのか、日高君は私の耳元でこう囁いた。
「んなの、気になるからに決まってんじゃん」
……耳元にかかる吐息、髪の毛。
ばっと耳を手で覆うと日高君が不思議そうな顔をした。