アリスとウサギ

 驚いて顔を向けると、ウサギは目を丸くしてアリスのジャケットをつまんでいた。

「どうしたの?」

「あ、ごめん」

 すぐさまジャケットは解放される。

 珍しくウサギの方が視線を外した。

「ほんと、ありがと。気をつけてな」

「うん。またね」

 アリスはそそくさと病室を出た。

 悪い癖が発動したのだ。

「帰るなよ」

 と言われることを期待してしまった。

 裏切られるとはわかっていたにもかかわらず。

 性懲りもなく。

 病院を出てから携帯の電源を入れると、メールが一件入ってきた。

 早苗からだった。

「今日の夕方、大学に救急車来たらしいよ」

 アリスは返信をすることなく携帯を閉じる。

 そして、コツコツとヒール音を響かせながら帰路についた。

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