アリスとウサギ

「どうぞ、こちらへ上がってきてください」

 あくまでもウサギを無視する熊谷は、入り口の自動扉を開けた。

 アリスは駆け込むように扉を抜け、エレベーターに飛び乗る。

 ボタンを連打して扉を閉め、ウサギの部屋のある11階へと移動。

 ウサギが危ない。

 根拠はないが、何となくそう思った。

 何かの力になりたい。

 何もできないけど、そう思った。

 ウサギの部屋のチャイムを押すと、出てきたのは熊谷だった。

 相変わらず飄々としたポーカーフェイスだ。

「お待ちしておりました」

「私、あなたを訪ねたつもりはありません」

 強気にそう告げて中に入ると、ウサギはリビングのソファーで不機嫌な顔をしていた。

「ウサギ……」

「首、突っ込むなって言っただろ」

 目にした瞬間は抱きつきたい気持ちになったが、この一言に心身が凍り付いた。


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