アリスとウサギ

 一言だけ告げて背を向けてしまったウサギ。

 アリスは彼に歩み寄ることはせず、ダイニングにポトリと紙袋を置く。

「これ返したら帰るつもりだったの。ごめんね、押し掛けちゃって」

 ウサギは背を向けたまま、無言。

「じゃ、ゼミもないし、また来年」

 踵を返すと、目の前には熊谷が腕を組んでいた。

「これでわかったでしょう? あたしたち、もう関係な……」

「考えて頂けましたか? 有栖川さん」

 彼は言葉を遮るのが得意らしい。

 そして、人の腹を立てるのも得意なようだ。

「いくら積まれたって協力なんてしません」

 そう噛み付いたとき。

「熊谷、帰るのはお前だ」

 頭上からウサギの声。

 思わずビクッと肩を震わせると、ウサギの手が左肩に触れた。

「おたくの社長は人にモノを頼む態度もしらねーのかよ。まぁ、いくら頼まれたって無理なもんは無理だけど。さっさと兄貴を見つけるんだな」


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