窓に灯

「ほら、パン焼けたよ」

 ダブルベッドから出ることができない俺を、恵里が無理やりテーブルに引っ張っていく。

 スカルプで武装された長い爪が俺の腕に少し食い込み、その軽い痛みで俺はやっとスイッチがONになった。

 テーブルには目玉焼きと、食パンと、コーヒー。

 目玉焼きは黄身をカチカチに固め、食パンは少しこんがり、コーヒーは砂糖少なめにミルクは多め。

 俺の好みは、全て彼女にインプットされている。

 これを準備した恵里は、もう着替えと化粧が完了していた。

 あとは髪を器用にスタイリングするだけだ。

「スプレーが舞うから、食事の前に髪は巻かない」

 というポリシーは彼女の思いやり。

 ギャルショップ店員である恵里は、見た目はいい加減そうだが、中身は意外としっかりものだ。

「いただきます」

「はーい」

 今では彼女というより、母親のようである。



< 2 / 53 >

この作品をシェア

pagetop