恋せよ乙女

でもそんなことより、“恭君”って何。
鈴木さん、いつも氷室さんのことを“会長”って呼んでいたじゃない。

わざとらしく発される言葉に、思いがけず感じてしまった二人の距離。
あたしの知らない二人の時間はきっと、あたしが思うよりも深いのだろう。氷室さんは別としても、鈴木さんにとっては。

黙ったまま、ただ睨みつけるだけのあたしに構わず、鈴木さんは続ける。


「だって、どうせわからないのなら私でも良かったでしょう?どうして、私じゃダメなのよ。あんなに…、あんなに毎日、幸せだったのに。いきなり“別れよう”だなんて…」


あたしの推測を裏付けるように、紡がれる言葉の数々……。弱々しくなっている声とは対照的に、鋭い瞳は未だにあたしを捉えて離さない。

でも。

私でも良かったでしょう?とか、幸せだったのに、とか。
そんなのはただ、過去に縋っているだけだ。
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