恋せよ乙女

でも、あたしのそんな心中の葛藤を二人が知る由もない。
小首を傾げて氷室さんの答えを待つ鈴木さんを一瞥し、氷室さんはゆっくりと話し出す。


「…嘘、ついちゃダメだよ香波。今までのこと、僕が知らないとでも思った?」

「知ってるの……?」

「うん、知ってる。知ってるからこそ、これ以上キミが紫音に何かしたら、僕はキミを許さない。」


二人の会話を聞きながら、フラッシュバックし始めた記憶に震え出す、あたしの手。再び過ぎる恐怖と不安に唇を噛み締めれば、不意に、握りしめた左の拳が温もりに包まれた。

反射的に視線を向ければ、氷室さんの右の掌がさりげなくあたしの手を包み込んでいて。


「第一、紫音は別に何もしてないだろ。香波が悔しくて、悲しくて、辛いのなら、当たる相手は紫音じゃなくて僕のはずだ。」


伝わる温もりに恐怖や不安は影を潜めたけれど、紡がれた言葉にハッとして氷室さんの顔を見上げた。
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