恋せよ乙女
どん、どん、と鈍く響く叩く音に、紡がれ続ける嘆きに、耳が痛くなる。伝わってくる切実な想いに、胸がえぐられたような気がした。
「何で? どうして私じゃダメだったの? 傍に居るのが私じゃ、恭君は不満だった?」
そして不意に見上げた氷室さんの表情は、やっぱり無表情だったけれど。若干心苦しさに歪んでいる気がして、あたしの手を包む彼の右手に、そっともう一方の手を添えた。
「…何で、私じゃないの。何で、加藤さんなの。私に無くて、加藤さんに有るモノって何?」
訴えかけるように問い掛け続ける鈴木さんの言葉は、未だ止まらない。もうやめて、そうあたしの心は叫んでいるのに、本当に止めることが憚られたのは、その原因を知っているから。
「恭君にとって、私って何だった?」
それでも相変わらず、氷室さんは何一つ問いには答えなくて。叩き続ける手を止めた鈴木さんは、もたれ掛かるように氷室さんの胸へ額を預けた。