レクイエム
居ても立ってもいられなくなったナキは麻袋を乱暴に舟に放り込むと、一言残して駆け出してしまった。


走る、走る。
とにかく前へ。
嫌な予感がして仕方ないナキは足がもつれそうになりながら、がむしゃらに路地裏を走った。

──呼ばれている気がするのだ。

声とは言えない声の聞こえる方へと進んで行く。露店の多い大通りに出てしまい、人混みに息を呑む。


「どうしよう…」



ドゴオォォォン！


耳をつんざくような轟音に街人がざわめき始めた。
遥か前方で爆発が起きたのだ。黒煙が昇り始めている。

今の爆発音で大通りの人の流れが完全に止まってしまった。
とにかく急行したいのに。いくら何でもこの人だかりを掻き分けて行くわけにはいかない。

元来た細い路地裏に戻り、思い切り地を蹴った。人間業とは思えない跳躍力でいとも簡単に屋根に着地し、また走り始める。
ただのガス爆発である事を願いながら、屋根から屋根へと跳び移る。
爆発地に近付くにつれ、黒煙により視界も悪くなってくる。市民の混乱も酷い。
< 28 / 110 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop