レクイエム
「海賊に拾われる時に名前くらいは口に出来たと思うんだよ。それが出来なかったと言うことは、空間の歪みに巻き込まれた時に記憶が飛んだのかもしれないな」

「なるほどね…」

「記憶喪失なら誕生日の思い違いも筋が通るしな。大方海賊に拾われた日を誕生日に決めたんだろう」


シベリクスが実父だと信じていたナキは、チクリと胸が痛んだ気がした。


「クーラはお前の母が付けた名前だ。大事にしろ」


母。
そうだ、シベリクスの実子じゃないのなら本当の父母がいるということになる。
父親の愛情はシベリクスが注いでくれていたが、母親からの愛情は知らない。
母の愛情に振れてみたくて胸が疼いた。


「行方不明になってから今までずっと探していた。魔族達が色気づく前に探し出し、両親の元へ護送しなければならない」

「もう時期が来てしまったのよね」


昨日出現した大群のレッサーデーモン。
彼らにナキの存在が知られてしまったからには、もう後戻りは出来ないだろう。早急に安全な場所へ行く必要があるようだ。


「あんたがレッサーデーモン達に便乗しないで私を護送するのは何で?幼なじみだからと言っても弱肉強食の世界なら弱い私を切り捨てるでしょうに」

「……。」


妙に重々しい雰囲気になった気がする。さっきから地雷を踏みまくってるんじゃなかろうかとナキも嫌な汗を流した。


「それは…」

「それは?」

「お前が俺の許嫁だからだ」

「はぅ……。」

「お、おい…しっかりしろ!」


この時ナキは、初めて失神をしてしまったのであった。
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